日本国と日本人の危機はギャンブルによって生じるのではない。その理由を以下で説明しよう。
第一.
泉のように溢れだす、豊穣で優美な文化というものは人間の自由な精神の生み出すものである。有限な物質で製作された塊は、象徴という役目を与えられ、作者の無限の精神世界を内包して初めてその意味をもつようになる。われわれは敬意をもって顕彰することができるにすぎない。
我が日本にも優れた作家がいた。中でも川端康成、三島由紀夫、谷崎潤一郎、江戸川乱歩といった面々は、日本独自の美を極限まで追求した。美と死の対照性、象徴性は作家の魂を、あるときは高揚させ、またある時は限界まで疲弊させた。その結果、無残な死もあった。だが、それは無駄ではない。新たな精神世界を紡ぎだし、ロックフェラー財団の招聘を受けて1年間遊学した寺山修司もかつて存在した。
彼らの活躍は、歌手にして役者の美和明宏氏らに引き継がれ、語られてきたが、残念ながら、現代ではこのテーマに真剣に取り組む作家はほぼ皆無である。
戦後、経済成長の時期を経て、日本人は先の作家たちが求め、表現し、行動してきたものを見捨ててしまった。
今の日本人の多くは同じ日本人の書いた文章がもはや理解できないのである。東南アジアの諸国をアメリカナイズされた異国とおもっていたら、自分の国が既にアメリカナイズされていたのだ。今の日本人はアメリカ=プラグマティズムの生み出すものは全て無批判に受け入れている。それは受け手には楽しく、愉快なものであり、模倣しかできない日本の多くの製作サイドには金儲けになるからである。
だが、決してそれは精神に豊穣をもたらすものではない。ツクリモノにすぎない。戦後の作家たちが精神を削りながら求めた日本の姿は、拝金主義と快楽主義にすり替わってしまったのである。
第二.
かつて日本で(前述した)隆盛を極めた半導体、電子産業は今日単独ではすっかり衰退してしまった。
まずはエルピーダメモリ。2009年に4480億円もの負債を抱え、事実上の倒産。その後マイクロン・テクノロジー(アメリカ)傘下に入った。経済産業省が興した産業活力再生法の適用を受けながらも復活はならず、国産DRAMは韓国のサムスンの技術力に負けたのである。
次はシャープ。亀山モデルで一躍有名になったが、2016年債務超過の末、台湾・鴻海傘下に入った。もはや日本企業では無い。
プラズマディスプレイで世界に乗り出したパイオニア。高額な給料で松下の技術者をPDP部門に引き抜き(オフレコだ!)、NECの工場を買い取り第4ラインまで製造、生産拡大を計ろうとしたが、韓国サムソンの技術力により大型液晶パネルとPDPの住み分けが崩壊。PDPはパネル単価が下がらず、あっと言う間に売れなくなり、2008年経営悪化。プラズマ部門をそっくり松下に身売りして終了。レーザーディスク事業での失敗をまた繰り返した、なんともおそまつな経営ブリ。
ジャパンディスプレイ(日立、東芝、ソニー出資)も2012年の設立以来、5年連続の赤字。倒産は時間の問題だ。
では具体的な例として、携帯やテレビに使われている液晶パネルの世界の生産状況を見てみよう。世界の液晶パネル市場は現在(2017年)次のようになっている。

大型液晶が韓国、中国、台湾で 89.8%、中小液晶が同じく53.6% 有機ELは韓国、台湾で98.6%となっており、既にディスプレイに関しては、韓国、中国、台湾企業の独壇場であり、もはや日本の出番は無いことがわかる。
鴻海傘下のシャープのように生産してはいるものの、その結果は赤字という有様だ。要するに日本の半導体・電子機器の技術(製造関連)は世界の同市場から駆逐されてしまったのだ。
だが、半世紀に渡り蓄積してきた技術は死滅してしまったのだろうか? 否、それは別の産業に取り込まれて進歩をつづけている。それは自動車産業である。
自動車のエンジン制御(ECU)をはじめとしてあらゆる部分にマイコン(CPU)が使用されている。ここにはかつて隆盛を極めたハードウェア技術の上にソフトウェア技術が生かされている。国産車ミドルクラス(今でいうプリウスランク)の国産車1台当たりに使用されているマイコン(CPU)の数は、1980年代は8個程度だったが、2005年には35個に上っており、2017年には80個にも上る。今、このマイコン市場規模は80億ドル(8000億円)以上になろうとしている。
CPUのクロック速度も1GHzに近づきつつあり、それらは単独で動いているのではなく、ネットワーク(CAN等)により接続され、データ交換と処理を大量且つ高速に行っている。
いわば、車の出荷台数が日本の半導体事業を支えているといっても過言ではない。
日本の全産業就業者数は6562万人(H29)
自動車メーカー主要10社の総売り上げ 68兆1730億円(H27) 534万人(8.3%)
携帯事業上位3社の売り上げ
18兆1466億円(H27) 電子情報産業の就業者 232万人
パソコン出荷量
8714億円(H26) 1008万台
総務省「労働力調査(平成28年平均)」等による。
ちなみに、パソコン出荷量については、
1位はHP(ヒューレット・パッカード社)
5880万台
2位はレノボ(中国) 5480万台
3位はDELL
4180万台
残念だが、日本の出荷量はこれらに遠く及ばない。
これを見れば、自動車関連業種に従事する日本人は総人口の約9人に1人。日本の経済は完全に自動車産業に依存する形になっており、もし自動車産業が落ち目になれば、半導体産業も右倣えとなるだけではなく、約800万人もの国民が路頭に迷うことになる。
この1業種に依存した産業構造こそ、日本の浮沈に関わる大問題なのである。
Pの市場規模は20兆円だが、就業人口は30万人とのデータがあり、自動車、電子・電気合計の規模と比べても全く話にならない。もちろん、だからといってPを無くしてよいわけではない。全国のP店には30万人の国民が今働いているのであり、Pメーカーや製造、周辺機器・装置に携わる人々を入れれば50万人を超えるだろう。代替案が無い限り、そう簡単に1レジャー産業を消滅させることはできないし、する必要もない。
問題は、先にも述べたように1業種集中依存型の産業構造を今後将来に渡って改善していかねば、アメリカの自動車産業の二の舞になるということを言っているのである。
既に始まっている自動車の電気・電子化の波は、エンジンがらみの関連企業を恐怖に陥れており、早めの業種転換を国が政策として推し進めなければ、日本の産業の劇的衰退を招くだろう。中東諸国が将来に備えて、石油依存の産業構造を変えるべく努力していることを、日本の政治家等は知らないのだろうか?
レジャーのPごときで、また森友問題などで騒いでいる場合ではない。
野党、特に民主党の残党どもは、与党に何かあると、鬼の首でも取ったかのように、いや、親の敵(かたき)にでも会ったかのように騒ぎ立てる。
無責任、政治ごっこ、やり逃げ政党であった民主党の残党どもは全員責任を取って今すぐ議員辞職すべきであろう。こやつらには他党を非難する資格も政治を担当する資格も無い。メール問題で大恥をかいたことを忘れたのか!(このようなものを支持する、無思想、無定見、無見識な愚民が日本には多いことも困りものだが。)
とにかく、憲法改正は早急に進めることが肝要である。カスの如き森友問題など早急にかたずけ、日本の根幹に関わる問題をしっかり議論すべきだろう。
第三.
ここで大変残念なことを言わねばならない。
日本の“自称“技術者(ソフト、ハード含む)の7〜8割以上が理工系出身ではない、ということだ。普通高校、専門学校、法学部出身など、論外のお方々なのである。これが日本の会社の9割を占める零細・小企業の実情である。
われわれ専門家から見ると、ド素人が、サラリーマンより良い給料が欲しくて“やってみた“というだけなので、彼らにハードウェア、ソフトウェア技術に関する学術的なレベルの知識は全くない。チューリングやシャノンの(原)論文も知らず、半導体工学や物理学の基本、さらに相対性理論(GPS、携帯電話に関わる)でさえも知らないのである。
海外から見た、日本人のハードウェア、ソフトウェア技術者の評価を御存じだろうか? 欧米の評価は、日本のSE=システムエンジニアは“下請けプログラマのまとめ役”程度なのである。
理工系の学士でもマスターでもない者が何故“SE”なのか?
実に不思議な国ニッポンである。
英語が理解できないため海外の情報に暗く、低レベルで、視野も裾野もせまい日本の技術者たちは、世界からは全く無視されている、ということを理解しなければいけないのだが、本人たちが全く理解できていない。根拠も無く、この小さな島の中で自分は優秀だと思っている。実に恥ずかしいことだ。
自己完結の、マスターベーション、皮被りインチキ技術者が蔓延しているのが日本の実情である。これは今後も、永久に続くだろう。これまで40年以上続いてきたからだ。
さらに、日本国内には学習塾が蔓延している。学習塾は考えることを身につけるところではない。解答を記憶するところである。よって、多くの塾通いした子供は、学生、大人になっても即解答を求め、ネット上から拾ってきたいい加減な内容でも正答として納得してしまう。それ自体を吟味できない、即ち、自分で考えることができない。
この世界には解答のない事柄がいくらでもある。文部省の教育方針が何であろうとも、学校の外に教育の一助を頼んでいる以上、現状のこの有様では、その目的が達成されることはないと考えていいだろう。
これらの話は私の実体験である。偽物を数々見破り、顧客のほんの一行の文言からシステム全体を創造し、世界的なインフラの構築にも関わってきたが故に言えるのである。
最後に、2016年のノーベル医学・生理学賞を受賞された大隅教授の言葉を掲載させていただこう。
“私は「役に立つ」という言葉はとても社会をダメにしていると思っています。それで「役に立つ」って、数年後に企業化できることと同義語みたいにして使われる「役に立つ」って言葉は、私はとっても問題があると思っています。
本当に役に立つことは10年後かも20年後かもしれないし、実をいうと100年後かもしれない。そういうなにか、社会が将来を見据えて、科学を1つの文化として認めてくれるような社会にならないかなということを強く願っています。”
だが、現実の日本は沈降しつつある。“基礎研究に携わる優秀な研究者も減ってきている”とは同氏の言葉でもある。もはやそれを止める術はないだろう。
あるとすれば、これから人口が減少し、政治・経済・産業の力が失われていくこの島国を脱出し、海外で労働・生活し、非日本人として活躍する多くの日本人が出てくることに期待するしかないだろう。
<終 2018.06>