P. Story/パチンコ・・・昨日・今日・明日(2/13)

3.<公開データと甘い罠>

 有料公開データに関する友人Sの言葉を確認するためインターネットで調べてみると、データロボサイトセブンなるものが確かに存在した。だがその内容は何の参考にもならなかったため、会費500円を払ってまで内容を見る気はしなかった。
正直言って、前述の通り確率の波を読むことはできない。大量のデータに対して可能なことは、あくまで統計的な処理だけである。まして出来上がったソフトウェアの評価を行っていないのでは話にならないだろう。もっとも評価を自分で行うならかなりの資金が必要になるし、そのほとんどが無駄になるが・・・ 
 
 台のデジタル化の波は驚異的な早さで進展した。もし前述の予測が可能なら、この10年間にそういった解析が一つ位出てきてもおかしくない。だが、一つもない。例えば、乱立するP雑誌の一つで、当時もっとも多く設置されていたCR海物語に関して、約1年に渡りデータ取りを行った記事があった。同台は絵柄もリーチも非常に単純でわかりやすい。その結果を見ても、いつ台が爆発するのか、連チャン、大ハマリも予測することはできていない。解説の基本は大数の法則による収束にあり、それらがどの程度の確率で発生するのかという統計上のデータの評価にとどまっている。

 これは当然のことなのである。そしてその記事を読んでも何の役にも立たない。それに海物語以外の台は新台入れ替えで導入されても、その営業上の寿命は短い。早いものは数週間、良くても数カ月程度なのである。客は玉が出ないとなれば、1〜2週間で飛んでしまう。新台入れ替えの周期が台の寿命となっているのがこの頃である。収束までの時間に対し稼働期間が短いため台の波は荒い、といっておけば、雑誌としては差し障りないに決まっている。さらにある駅前のP店には2年以上に渡って設置されていたモンスターハウス(8台)があった。夕方からサラリーマンによりほぼ毎日昼の回転数を含めて1000回転以上稼働されていた。あの長期に渡って人気を博したモンスターハウスでも1/367に収束している台は1つもなく、台の9割が確率以内で当たらず、毎日が大荒れであったことを思い出す。



<ミニコラム:P店はP台を知っている?>


 P店は大金をはたいてP台をメーカーから購入する。1996年頃は1台の平均価格は約24万円。だが、こんな高価なのにその中身についてはよくわからないのである。スペックは発表されているが、台を設置して電源を入れ開店し、客がそれに座り金を入れて回すまで、売り上げがいくらになるかは未知数なのである。ただ、これまでの経験則から売り上げを予想できるに過ぎない。
さんざん雑誌やTVで新台を宣伝して煽られた揚句、いざ設置してみたら数日でゴトが発覚し、電源を入れることなく撤去ということもあったのだ。

 その良い例が“蒼穹のファフナー(2009年発売)”である。同台を設置稼働している店には必ず怪しげな連中が数人集まっていた。そこは異様な緊張感に包まれており、危険な空気が充満していたことを思い出す。しばらくしてそのシマだけが電源を落とされ、実に惨憺たる光景だった。当然稼働していた店も同台に“調整中”の札を入れて電源を落としていた。

 また、台のデキにも左右される。これは故・田山プロがよく口にしていたことだ。新台でありながら、1週2週と様子を見ても1日の当たりが10回以下のカス台が必ずある。ヘソクギもこれでもかという位に空けてあり、ボーダーも30以上ある。こうした台は毎日ハマりの連続で、客もバカではないからもはや寄り付かない。ボーダー理論を信じるのもいいが、こんな身近な所でその破綻を見ることができる。この世に絶対は存在しないことを心すべきだろう。

 このように中身の不明な”欠陥”というべき商品を購入した店側は大損害だろう。だが、店側はそのままでは終わらせない。そのツケは結局P客に跳ね返ってくるのだ。




 友人Sと小料理店で会ってから時々共に飲むようになった。そしてオリンピック開催の年、1998年1月を迎えた。(開催期間は2/7〜2/22)
P業界は5回リミッタの嵐が吹き荒れ、2回ループ機は撤去され、現金機も消えるのを待つのみとなった。そうしたわけで自然と自分もP点から足が遠のいていた。
そんな折、友人Sから再び連絡があった。
既に1月も終わりに近かった。

「いよいよオリンピックですねぇ。ところで、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、今日は忙しいですか?」
「仕事の終わりが19:30頃になりますが・・・」
「いいですよ。百貨店の前のドトールで待ってます。」
相変わらずドトールが好きだなぁ、と思いつつ、
「わかりました」

 その後、仕事は前述の会社に決まっていた。ある物件の仕様書の作成には若干余裕があるので、予定どおり19:30に退社し、例のドトールに徒歩で向かう。5分で到着。
店に入ると、奥に友人Sがいた。
「どうもお待たせしまして」
「わざわざすみませんね、アメリカンでいいですね。」
といって、さっと席を立ち、コーヒーをもってきてくれた。
「いやぁ、申し訳ないです」
「このくらい大したことないですから」
「で、どうしました。」
「ここでは何ですから、どこか座敷のあるところにでも行きませんか?」
「良いところがありますよ、この近くで。」

7分程歩いてある料理屋に向かった。風が冷たい。
座敷にて。既にビールと料理は揃った。
「で、どうしました?」ビールを注ぎながら私は尋ねた。
「Nさん、体感器って知ってます?」
「あぁ・・・P雑誌の広告に良く載ってますよね。インチキ攻略法と一緒に。」
友人Sが笑いながらいった。

「またそういうことをいう・・・それなんですけど、使えると思いますか?」
「カウンタの周期と大当たりの位置がわかれば、秒単位のタイミングを作ることは可能です。ただ、人間の手で電チュウに玉が入ったタイミングに合わせるのはかなり難しいと思いますが・・・」
「そうですか・・・」
と、小さく折りたたんだ紙をバッグから取り出して見せてくれたのが、体感器のマニュアルだった。そこにはいくつかのP台のカウンタ周期などが書かれていた。だが、その内のいくつかは以前P雑誌に掲載されていた。とすると彼は本体も持っているのだろう。

「この装置を作るといくらかかりますか?」
「基板をおこすわけですか・・・イニシャルコストがかかりますねぇ。」
「これが実機です。」
といって、周囲をはばかる様に友人Sが見せてくれたのが本物の体感器。予想は当たった。
「これは・・・」
体感器のケースは試作のためによく購入していた某ボックスメーカー製の150円程度のいかにも安っぽいプラスチックの箱であった。

名前を見て笑った。
「勝○朗とは・・・なんともバカにした名前ですねぇ」
「まぁ、そう言わずに・・・」
手に取ってみたが、中身が気になる。
「中を見せてもらってもいいですか?」
友人Sはコインをミゾにいれて蓋をはずした。やはり中身はそうではない。CPUには某メーカーの1チップマイコンを使用していた。これはイニシャルコストをかけた本格的なものである。だが、外見はやはり150円だ。

「いくらしたんですか・・・?」
「20万円位したかと・・・ただし、講習料金込みで・・・」
「講習ですか?」
すると、彼はこちらに身を乗り出し、周りをはばかりながら小声で言う。
「この機械は買っただけでは使いこなせないんです。使いこなすのにP店で実践したのではいくらあっても足りませんからね。それに捕まる可能性もありますし・・・。販売元では攻略用のP台を何台か購入してあり、そこで1週間指導してもらうわけです。」

「で、効能はどうでした?」
「それができていたら、こいつの広告にある“月収100万円も可能”の通り、今頃楽していい暮らしをしてますよッ・・・納期に追われて徹夜なんかすることなく・・・」と、吐き捨てるような答えが返ってきた。

普段はおとなしい人だけに何か気が滅入ってしまった。
彼は技術をもった事業主であり、優良メーカーと付き合っていたからお金にはさほど困ることはなかったはずだ。酒もほとんど飲まない。バーボンや焼酎を1杯ゆっくり飲むのが好きな、年上だが良き友人だ。

Pにはまったばかりに、その様なまがいものにまで手を出してしまったのだろう。だが、彼との付き合いはP抜きでも既に30年になる。他人事ではないのである。
なるほど、我々の技術をもってすれば、このネタを利用して体感器を作ることができる。そしてこれを販売すれば、元を取れると考えたようだ・・・

「ちょっと借りてもいいですか?」
「どうぞどうぞ、使ってみてくださいよ。ちょっと使ってみただけなんで・・・」
道理でモノがきれいである。手あかも付いていない。
これが20万円か・・・すぐに見積もりが浮かんでくる。このセットは部品が5000円以下、基板のイニシャルが50万円、ソフトが50万円程度としても100台売れば1台当たり15000円となる。一式30万で売ると4台で元を取れる。なんとボロイ商売だろうか。われわれ製造業界の常識ではあり得ない金額設定である。

セット作りは容易である。だが問題はマニュアルに書かれた攻略台である。1998年1月の時点で、まともに使えるのはモンスターハウス位なものだろう。釘も締められつつある。「ここに記載されている現金機は既に撤去されていますよね。ある店でいくつか見た記憶がありますが・・・」とりあえず、この日はこれで別れた。

私はその後の日曜の朝、ジャンパー内に体感器を隠し、袖口から電線を通してタイミングスイッチを左手のひらに仕込み、たまに出かけるR店に行った。ここは比較的新しくできた店である。中にはモンスターハウスが16台あったが、誰一人座る客がいなかった。
座った台は釘が悪く、2.5円でありながら1000円250玉で12回程度しか回らない。10000円投入しても100回回るかどうかなのは明らか。

自分の記憶では、これまでこの台が300回以内で当たったことはほとんどない。500、800、900、1200とハマった後に大体出ている。しかもこの台の出玉は厳しい確率(1/367)の割に約1800個としょぼいのである。(アタッカー周辺釘の調整による。2000個のドル箱が満タンにならなかった。)ただ一旦確変に突入し、当たりを重ねて、画面に“大爆発中”の文字がでれば大勝ち確定となる・・・のだが、この有様では・・・というわけで、ばかばかしいので友人と5千円づつ出してその中古台を買った。この方が効率がいい。

しかし、出張が重なり、なかなか練習する時間がとれない。日曜日に集中的に試してみたが、実際のところ玉を2、3個打ちだして、タイミング良く電チュウに入れるのは非常に難しい。3連したかと思えば、微妙なタイミングで通常当たりを引いてしまう。

250個(1000円分)、30回転に調整。300回転で2500個(1万円分)40分経過、600回転で5000個(2万円分)80分経過。当らない。疲れるので休憩。

確率1/367の台で自力で確変を引くのはそう簡単ではない。台は循環式なので勝手に動いているのだが、2時間近くもこんなことをやっていると、日頃最短効率をモットーに仕事を行っている立場からは完全に時間の無駄としか言いようが無くなる。
日曜である。休憩中に疲労回復と景気付けに、ついビールを買ってきてしまう。まぁ、後は想像に難くない。

かくして、連チャンが夢となりかけていた頃、なんたることか、モンスターハウスはほとんどの店舗から突然消えていた。
 なんという茶番劇であろうか・・・当時はP業界のことをよく知らなかったので仕方なし・・・か。



 体感器:○太郎

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